5月24日 215日目 木曜日 はれ 今治市から西条市
夜が明けて、誰よりも早く【延命寺】の参拝を済ませた。
そのまま1時間ほど歩いて、55番【南光坊】の参拝も済ませて
57番の【栄福寺】へと到着した。
【栄福寺】では境内の入口でお接待をしているおばさんに会った。
おばさんは【栄福寺】のすぐ近所に住まれてる方で、
天気の良い日には数人分のお弁当を家で作ってきては、
こうしてお遍路さんに食べてもらう為に配っていた。
おばさんが作ったお弁当をありがたくいただいた。
ここからお次の58番【仙遊寺】まで約3km。
再び、歩き遍路でむかった。
この四国旅の道中、おれもそれなりには歩いている。
香川県にはいると、お寺からお寺までの距離がグッと短くなる。
つまり、ヒッチハイクをすることなく歩いて回ることが多くなる。
この四国お遍路が終る頃、半分とまではいかないが1/4いや1/5くらいは
おれも四国を歩いたことになる。
旅が終わる頃、すこしは歩き遍路とおなじように何かを感じ取れれば。
58番【仙遊寺】、木々に囲まれて日陰が多く涼しい風が吹いていた。
おばちゃん3人組と一緒になった。
おばちゃん3人組は分割でマイカーお遍路をされていた。
参拝を済ませて、【仙遊寺】の敷地内を見渡すと無料の足湯をみつけた。
それに疲れた二本の足をつける。
そこから見える今治市の街並と海が絶景だった。
ちょっとした、ご褒美だった。
そこへ、さきほどのおばちゃん3人組がやってきた。
「あらぁ、おにいさん!おばさんたちも一緒に混浴させてもらってもいいかしら?」
足湯のことを混浴というのも、めずらしい……。(笑)
「この際だから、おにいさんの若いエキスをいただいちゃいましょう!」(笑)
……と、3人は「ガッハッハ!!」と笑いながらしゃべりつづけた……。
そして、おばさんたちと別れて59番【国分寺】へと6.5kmの道を歩いた。
う〜ん、おれも見た目はもう立派な歩き遍路だ。(笑)
【国分寺】の入口で托鉢している怪しい男が話しかけてきた。
「おにいちゃん、旅が長そうだな。屋久島にはもう行ってきたかい?」
なんだ、いきなりこの怪しい男は……!?
「え、旅は長いですけど屋久島へは来月あたり渡るつもりです……」
と、怪しい男に答えた。
「ふふっ、屋久島はいいぞぉ!あそこはパラダイスだぞおにいちゃん!!」
なんだ、この怪しい男は……!?
一体全体、屋久島の何がパラダイスやというんや?
「気になるだろ?!気になっただろ?!ふははっ。あすこのおんなの子は
サイコーなんだ。おれなんか女子高生といいコトしちゃったぞォ!!」
なんだよ、そんなことかい……。
ほんと托鉢してるくせに、煩悩の塊だなこのおっさんは!(笑)
【国分寺】の正面にあるお土産屋さんで、アイスクリン(アイスクリーム)の
お接待をうけて、それを食べながら国道196号線を南下した。
滝のように額から汗がしたたるくらいの真夏日だったので
このアイスクリンのお接待は、最高の贈り物に感じられた。
ここから次のお寺60番【横峰寺】までは 35kmもあり
この四国お遍路では最大の難所と歩き遍路たちに恐れられている!
西日本最高峰の石鎚山もこの【横峰寺】からは目と鼻の先だ!
しかし、おれは純粋な歩き遍路ではないので
ここは是非ともヒッチハイクで【横峰寺】までいくつもりだ!
国道196号線沿いにある道の駅付近で
西条市へむかうクルマをヒッチハイクすることにした。
ものの10分たらずで、偶然にも【横峰寺】の近くの自宅まで帰ると言う
60代前後のやさしそうな笑顔の金子さん夫婦に拾われた。
金子さん夫婦の奥さんは、病気で足を悪くされており来週から
東京のおおきな病院へ入院することが決まっていた。
つい最近、東京の病院から退院して西条に帰ってきたばかりというのに
再び、東京へもどることが決まり奥さんの容態がきにかかる。
金子さん夫婦は自宅に帰るのを急いでいるわけではないので、
「【横峰寺】まで連れて行ってあげましょうよ」と奥さんが言ってくださった。
【横峰寺】までクルマでいく場合、絶対に有料道路を通らないといけない。
わざわざ有料道路往復料金1800円を払い、自宅に帰るのが
遅くなってまでおれをお寺まで乗せていってくれる金子さん夫婦に
言葉がでなかった……。
途中、黒瀬ダムを横目に綺麗な山道をゆく。
奥さんはただ静かに景色をみている。
そして旦那さんの穏やかな運転。
ところどころ、道は狭くなったり急なカーブが現われたり。
そうして、四国お遍路最大の難所60番【横峰寺】までなんの苦労もなく
辿り着いてしまったのだった………。
【横峰寺】の駐車場で金子さんの旦那さんが口を開いた。
「ここで私たちは待っているから、きみはお参りをしてきなさい。
そんなに急がなくてもいいから。」
おれはその言葉に甘えることにした。
納め札と線香とロウソクを持って、500m下へと続く階段を
走っていっきに下って行った。
息はかれ、すれ違うおじさんおばさんたちが笑っている。
この急な階段をこんどは登ってゆくことを考えるとちと気が重いが、
ゆっくり歩いて駐車場まで戻り金子さん夫婦を待たせるわけにはいかない。
無我夢中で本堂へ辿り着いた。
息を切らしながら参拝も済ませて、お守りをひとつ購入した。
そして、また金子さんが待つ駐車場まで駆け上がった。
金子さんはクルマから降りて眼下にひろがる景色を眺めていた。
おれに気づいた金子さんは
「そんなに急いでくることもなかったのに……」と笑った。
クルマに乗り込むと金子さんが
そばの自販機で買った缶ビールを差し出して
「喉が渇いただろ、これでも飲みなさい!」と言った。
おれも、お返しに金子さんにさっき買ってきたお守りを
金子さんの奥さんに渡した。
「ジブン何も、できないですけどおばさんの足が良くなるように
お願いして、おばさんにお守り買ってきました……」
「そんな気をつかわなくてもいいのに……」と夫婦は苦笑いした。
そして、さらに金子さん夫婦は遠回りして61番【香園寺】まで
おれを連れていってくださった。
なぜ、こんなに見ず知らずのものにやさしくできるのだろうか?
べつに見返りを期待してやってくれてるわけでもない。
この旅が終わる頃、その答えは自ずとわかってくるはず………。
金子さん夫婦にお礼を言い、ふたりはクルマに乗り込んで
何ごともなかったように再びクルマは走り去って行った……。